第348章

栗原愛南は少し驚いた。

  その時、車のドアが開き、井上市川が後部座席に座って彼女を見つめていた。「栗原……南條お嬢様、一緒に乗りませんか?」

  井上市川は紀田杏結のいとこで、今日井上斉子が付添人として来ていたので、彼もいるのは当然だった。

  今はみんな結婚式が行われるホテルに向かっている。

  彼は花嫁側の親族として、披露宴に出席する必要があった。

  そのため、紀田家の車が後ろについていたのだ。今、井上市川は栗原愛南を見つめ、その目には探るような色が満ちていた。

  栗原愛南は前後を見回した。

  車列は長く、ホテルに着いたとき、紀田杏結が彼女を見つけられなければ、また余計な心配をするだろう。彼女はためらわずに直接車に乗り込んだ。「ありがとうございます」