紀田杏結は手の中の薬を見つめていた。黒々とした漢方薬は刺激的な苦みを放っていたが、その苦みも今の心の冷たさには及ばなかった。
彼女は再び下を向き、自分の平らな腹部を見つめた。
まだ三ヶ月にも満たないため、お腹はずっとあまり目立たなかった。
しかしこの三ヶ月の間に、彼女は徐々にその存在に慣れ、誰かが近づいてくると、無意識にお腹を守るようになっていた。
さらには何度も夢を見るようになり、この可愛い子供との出会いを夢見ていた。
栗原井池に五分似て、自分に五分似ているかもしれないと夢見ていた……
今、結局彼女は、この子を守ることができなくなってしまった……
紀田杏結の目が徐々に潤んできた。絶望と悲しみの感情が全身を包み込むのを感じた。
彼女は再び栗原井池を見つめた。
彼を責めるべきなのか……どれほど責めるべきなのか、わからなかった。
確かに過去の数年間、彼女は無為に過ごし、叔父に連れられて酒を飲み、付き合いをし、他人の目には、とうの昔に悪名高い援助交際の女の子というレッテルを貼られていた……
紀田杏結は俯き、苦笑いを浮かべた。
突然彼女は言った:「栗原井池、DNAの検査はもういいわ。」
栗原井池は一瞬固まった。
目の前の少女は俯いたまま、何も言わず、ただ静かに前方を見つめていた。
彼女がDNA検査を要求しなくなったことで、むしろこの子が自分の子ではないことを証明しているようだった。
しかし何故か、彼の心は不安に駆られた。
紀田杏結の涙は大粒となって薬の器に落ちた。彼女は小さな声で言った:「もういいの、あなたを解放してあげる。」
子供がいなくなれば、DNA検査をすることは栗原井池にとって最大の残酷さになるでしょう?
彼女は先ほどまで怒りに任せ、感情的になって、真実を知らせたかった。
でも今、彼を解放することに決めたのだ。
彼女は苦笑いを浮かべ、その薬を口に運ぼうとした。
しかし次の瞬間、手首を掴まれた。
紀田杏結は驚いて顔を上げると、栗原井池が彼女をじっと見つめており、その目には戸惑いと困惑の色が浮かんでいた。
彼自身も、自分が何をしているのか分からなかった……
なぜ突然彼女を止めたのか、それすらも分からなかった……
我に返った時、栗原井池はようやく手を離し、一歩後ずさりした。