栗原井池は署名を終えると、その契約書を見つめていた。
躊躇している間に、一部は既に紀田杏結に取られていた。
紀田杏結は目を伏せ、その離婚協議書を丁寧にバッグに入れると、窓の外を見つめた。
紀田のお母さんは栗原井池の上の空な様子を見て、思わずため息をついた。
栗原家は恋に落ちやすい、それは彼女が前から知っていた。
栗原家の三男が結婚しないのは、ずっと南條静佳のことを想い続けているからだ。
夫も自分に一途だったし、栗原井池のこの様子は、明らかに紀田杏結に心を奪われている。
紀田杏結のためなら、この子供を認知するところまでできるほどに。
ただ残念なことに……
二人にはそういう縁がなかったのだ。
他のことは譲歩できても、子供の件は大騒ぎになってしまった。このまま認知してしまえば……