しかし、彼の後ろで、栗原愛南は優しげなパジャマ姿で立っていた。彼女は小さな誕生日ケーキを手に持ち、笑顔で立っていた。
彼が振り向いた瞬間、時刻は深夜を過ぎ、新しい一日が始まっていた。
栗原愛南は口を開いた。「森川北翔、お誕生日おめでとう」
彼女の笑顔は甘く、そして誠実で、森川北翔は一瞬目を奪われた。
彼は呆然と栗原愛南を見つめた。「知っていたのか?」
「もちろんよ」
栗原愛南はゆっくりとケーキを持って前に進んだ。「忘れないでね、私の記憶力はとても良いの。あの時、婚姻届を出した時に、あなたの身分証明書の番号も全部覚えちゃったわ」
森川北翔は驚いた。「じゃあ、今日は...」
ここまで言って、突然何かに気付いたように「わざとだったのか?」
栗原愛南は笑いを堪えながら、さらに前に進み、ケーキをテーブルに置いた。そして手品のように、ポケットから小さな箱を取り出して彼に渡した。「プレゼントよ」
森川北翔は一瞬固まった。
彼がゆっくりと箱を開けると、中には紳士用の腕時計が入っていた。
この時計は手作りで、電子時計ではなく、古典的な機械式時計だった。有名なブランドだが、その中でもマイナーなモデルだった。
森川北翔は一目見て、とても気に入った。
「気に入った?」
栗原愛南が尋ねると、彼がうなずくのを見て、笑顔になった。「やっぱり、気に入ってくれると思ってた」
森川北翔は再び笑みを漏らした。
彼は直ちに時計を手首に着けた。清潔で力強い手首に、この時計、そして森川北翔が今着ている黒いシルクのパジャマ姿が、栗原愛南には魅力的に映った。
森川北翔は突然彼女を見つめた。「でも、もっと好きなプレゼントがある」
「何?」
栗原愛南がそう聞いた瞬間、腰を男性に抱きしめられ、そのまま彼の腕の中に倒れ込んだ。そして耳元にくすぐったく、男性の声が聞こえてきた。「君だよ...」
栗原愛南:!
彼女が森川北翔を押しのけようとすると、彼が尋ねた。「いつ買ったんだ?」
「今日よ。だからショッピングに連れて行ったの。退屈死にそうだったけど」
栗原愛南は幼い頃から、全ての時間を新しいことを学ぶことに費やしてきて、買い物や服を選ぶことはあまり好きではなかった。
森川北翔は再び笑った。「今日ずっと一緒にいたのに、気付かなかったな」