第734章

栗原愛南は疑問を抱きながら、木村奥様について中へ入った。

小島家の使用人は少なく、歩いてきた道中では、広大な邸宅を管理しているのはたった二、三人だけだった。

木村奥様は斎藤愛南が辺りを見回している様子を見て、口を開いた。「小島家は大勢の人に仕えてもらうのを好まないの。私たち小島家の者は皆気取らず、普段の生活は自分のことは自分でする。子供の頃から、メイドに頼ることは許されないと教育されてきたわ」

小島家のこのような生活は、本当に質素だった。

斎藤愛南は口を尖らせた。「お金があるのに生活を楽しまないなんて、小島家の考えていることが分からないわ」

木村奥様は彼女を一瞥し、笑いながら言った。「小島家が追求しているのは精神的な自由よ。小島家の者は決してお金に左右されないの」

求めるものが少なく、欲がないから、お金のために魂を売ることはない。

小島家のこのような生活様式は、むしろ栗原愛南が憧れるものだった。

彼女は大金持ちになることも、長者番付に載ることも求めていない。ただ母と一緒に、自由に生きていけること、南條家に束縛されないことだけを望んでいた。

小島家のようになれたら、どんなにいいだろう?

彼女は密かに小島家の人々を羨ましく思った。

木村奥様も話し始めた。「まだ小島家に嫁ぐ前、実家にいた頃が一番自由で気楽だったわ!栗原家の三男を好きになった時も、両親は一度も止めなかった。小島家は木村家を支配することにさえ、あまり関心を示さなかったの……」

木村奥様はここまで話すと、目を伏せた。「あなたのお父さんが他の人を好きになってしまったの。だから私は思い切って木村家に嫁いだわ。どうせ彼でなければ、誰でもよかったから」

木村奥様は苦笑いを浮かべた。「家族のために少しは貢献できたということね」

栗原愛南はこの言葉を聞いて、驚いて木村奥様を見つめた。まさかこの人が恋に生きる人だったとは……

でも残念ながら、お父さんは母の人だけ。

それに木村奥様も言うだけのことで、父への思いは若かった頃の単なる胸の高鳴りに過ぎない。今の木村奥様がとても幸せそうなのが分かった。

栗原愛南はこの言葉に返事をせず、木村奥様は続けた。「小島家の人は身内を大切にするの。あなたたちのこの件は、森川麻理亜に関係があると思うけど、具体的な理由は私にもよく分からないわ」