私だけが悲惨であってはいけない

おそらく夫婦の心が通じ合っているからでしょう。そのため…生放送を見ていた墨野宙は、すぐにコートを手に取り、歩きながら陸野徹に指示しました。「今晩の全ての会議を延期してくれ」

「かしこまりました、社長」陸野徹は笑みを浮かべました。最近、墨野宙が衝動的になることが多いようです。かつてはあれほど自制心のある人でしたが、衝動的になる姿は、本当に羨ましいものです…

黒のロールスロイスを運転しながら、墨野宙は天野奈々の受賞スピーチを聞きつつ、授賞式会場へ向かいました。奈々の願いを、彼はすべて理解していました。はっきりと見て取れたのです。

これは何か重要な賞ではありませんでしたが…奈々が新たな出発をする最初の賞でした。彼女の側にいて、彼女の努力を認めたいと思ったのです…

天野奈々はステージ上で輝かしく華やかでしたが、最も重要な受賞の言葉を口にすることができませんでした。最も大切な人への感謝を伝えられないのは、彼女の心残りでした!

「実は言いたいことがたくさんあるのですが、千言万語を一言にまとめると、それは『ありがとうございます。私はもっと強くなります』ということです」

会場からは雷鳴のような拍手が沸き起こりました。今夜の授賞式で、出席者が最も心から納得したのは、この特別貢献賞でした。なぜなら、天野奈々はモデルとしての役割を真に発揮し、間違いなく模範を示したからです。これこそが、授賞式全体のクライマックスだったのです…

天野奈々のおかげで!

最後に、授賞式は終盤を迎えましたが、貢献賞を受賞した天野奈々は早退せず、式が終わるまで客席に座り続けていました。

この間、木下旭は天野奈々に気を引こうとしなかったわけではありません。特に奈々が授賞台に立っていた時、その輝かしくも寂しげな美しさは、普通のモデルとは比べものにならないものでした。しかし…木下旭は、今最も重要なのは先に病院へ行って雨野柔子に会い、二人の関係が暴露されないようにすることだと分かっていました。

東京の夜空は、これほど明るかったことはないように思えました。星々が瞬き、天野奈々がテレビ局を出ると、車のドアの前で静かに待っている中村さんの姿が見えました。彼女は微笑んで、急いで前に出て中村と抱き合いました。

「天野さん、おめでとう。本当に、本当にうれしいわ」