電局に向かう途中、天野奈々は途中で降りて薬を買い、温かい水を見つけて墨野宙の目の前で飲ませてようやく安心した。墨野宙は彼女の心配そうな様子を見て、唇の端に微笑みを浮かべた。「もう薬を飲んだよ。まだ怒ってる?」
「じゃあ、次に同じことがあったら、やっぱり私に言わないの?」天野奈々は真剣な表情で彼を見つめて尋ねた。
「あなたが強くて、何でも完璧にこなせて、いつも輝いている姿を見せているのはわかってる。でも本当の夫婦って、あなたが一番私を必要とする時に、私があなたの傍にいられることなの。あなたにとっては些細なことかもしれないけど、私はやっぱり心配になるの…」
「宙、私が求める愛はそんなに複雑じゃないの。私を気遣ってくれる人、私が気遣える人がいるだけでいいの。それだけよ」
墨野宙はこの言葉を聞いて、2秒ほど黙った後、手を伸ばして天野奈々を抱きしめた。「これからは違うようにする…全部あなたの言う通りにするよ」
天野奈々は墨野宙の胸を軽く叩いた。無言の抗議のようだった。そして、彼の腰をきつく抱きしめた。
エンターテインメント業界の帝王として、冷酷な決断を下すのが常だった。結局、これは残酷な世界で、芸能界はどの業界よりも現実的だ。彼は演技をしているわけではないが、確かに素顔を見せるのは好きではなかった。しかし、この腕の中の小さな女性は…
ほんの些細な風邪でさえ、彼女をこんなに心配させる…
まるで人と人との間の、最も原始的で純粋な姿を、彼の目の前に見せつけているようだった。
そうだ…好きな人がいるなら、思う存分愛して、甘えて、怒って、尽くせばいいじゃないか。なぜ一番好きな人の前でさえ、こんなにも気を張らなければならないんだろう?
二人は静かに温かく抱き合っていた。まるでお互いの体温を吸収しているかのように。そして、天野奈々の携帯に7時50分のアラームが鳴った。ラジオ局の会議がもうすぐ始まる。でも彼女はまだ途中だった…
天野奈々は眉をひそめたが、何も言わなかった。しかし墨野宙は彼女の手から携帯を奪い取り、こう言った。「君に迷惑はかけさせない…」
…
ラジオ局の会議室。