墨野宙が戻ってくると、天野奈々は完全に心配を忘れ、二人は長い間抱き合っていた。安藤皓司から催促の電話がかかってくるまで。
「行きなさい。私は身支度を整えて、すぐに会社に向かうから」墨野宙は優しく言った。
天野奈々はうなずいた。以前の心配や恐れは全て消え去っていた。墨野宙の前では、確かに冬島翼とも数年一緒にいたが...しかし、こんな感覚は一度もなかった。心臓が墨野宙との間に糸で繋がっているかのように、墨野宙に何かあれば、引き裂かれるように痛むのだ。
安藤皓司がまだ待っていることを思い出し、天野奈々は墨野宙の腕から離れて外に出た。
ハイアットレジデンスの入り口で、安藤皓司は介護タクシーに座って天野奈々を待っていた。今や彼女はオレンジフィールドエンターテインメントと契約したモデルなので、オレンジも彼女にふさわしい待遇と尊重を与えていた。