第149章 また天野奈々に面目を失う

墨野宙の眉間からはすでに鋭さが消え、心配と諦めだけが残っていた。

  彼は天野奈々の両足を自分の服を開いた胸元に包み込み、さらに両手で奈々の手を握りしめてこすった。奈々の四肢が温まるまでそうして、やっと彼女の足を静かに放し、深い眼差しで彼女を見つめた。

  「大丈夫よ」と奈々は急いで言った。墨野宙が信じないのではないかと思い、さらに真剣に強調した。「本当に」

  墨野宙が何も言わないのを見て、彼女は説明を続けた。「私はAモデルよ。あなたが誰よりもよく知っているでしょう。私は善良な人間じゃない。今日まで我慢して来たわけじゃないの。私は自分が何をしているかわかっているの。だからそんなに心配しないでくれる?」

  墨野宙はまだ何も言わず、ただ視線を転じ、バックミラーから彼を観察している安藤皓司を見つめた。

  安藤皓司は認めざるを得なかった。彼が接したすべての人の中で、墨野宙ほど鋭い表情をする男はいなかった。

  天野奈々に対しては柔らかくなれるが、部外者に対しては支配者であり、まさに帝王だった。

  このような男が天野奈々の後ろにいる男だと、安藤皓司はこの瞬間まで信じられなかった。

  「HerVisionに電話をして新しい撮影チームを派遣してもらいます…」と安藤皓司は急いで言った。

  「自分のカメラマンチームを使え。費用は…俺が出す。HerVisionにはもう使えるチームが1つしか残っていない。さっきすでに失格した」と墨野宙は冷たく言った。「確かオレンジ傘下にFEARLESSというカメラマンチームがあったはずだが…」

  「それはオレンジ傘下ですが、ここ数年ずっと斎藤椿と花井優子についてあちこち飛び回っていて、社内ではすでに彼女たち2人の私設チームだと認識されています」と安藤皓司は説明した。墨野宙の言葉の意味するところは、斎藤椿と花井優子からカメラマンチームを奪おうとしているのか?

  それに、墨野社長、オレンジはあくまで他人の会社なのに、社内の人間以上にオレンジのことを詳しく知っているのはどういうことですか?

  「連絡を取れ…」墨野宙の声は冷たかった。「裏で手を回せるなら、代償を払うことも理解しておくべきだ!」