第251章 二種類の人間

投票の出来事は大きな波紋を呼ばなかった。ファンたちはまだ墨野宙と天野奈々の関係に夢中だったからだ。確実な答えが得られるまで、この熱狂は長く続くかもしれない。

しかし夏目凛はそれを気にしていなかった。東雲愛理に見せることができれば、この計画は無駄ではなかったことになる。

東雲愛理が夏目凛の提案を黙認したので、二人が海輝に戻った後、夏目凛は墨野宙に一度会わせてほしいと頼んだ。

山本修治が内線で墨野宙の意向を確認し、承諾を得た。

「愛理、必ず君のために頑張るから、安心して」夏目凛は階段を上る前に、東雲愛理をじっと見つめ、瞳には異常なほど真摯で熱い光が宿っていた。

東雲愛理はいつもどおり、うんざりしたように頷き、態度はやや適当だった。夏目凛の姿が自分の視界から消えたときになって初めて、彼女は携帯をしまい、立ち上がって山本修治を探した。

「彼女が何を言うのか聞きに行きたい」

山本修治は肩をすくめ、東雲愛理と一緒に、夏目凛より遅れて最上階に向かった。

……

社長室で、夏目凛は入室した瞬間から頭を下げてソファに座った。墨野宙を見上げる勇気がなかったからだ。芸能人の運命を左右するこの男性は、一言で彼女を破滅させることもできる。

しかし……もうここまで来てしまった。彼女には後戻りする道はない。

もし墨野宙に、東雲愛理と海輝の関係を裏で操っていたのが自分だとわかったら、その結果は彼女には予測も制御もできないものだろう。一歩を踏み出した以上、これからの一歩一歩は、もはや自分の意思ではどうにもならない。

だから、夏目凛は自分の鼓動を抑えながら、震える声で墨野宙に尋ねた。「墨野社長……」

「話せ……」墨野宙はソファに斜めに座り、茶色のスーツ姿が彼の堂々とした体つきを引き立てていた。

天野奈々と結婚する前は、墨野宙の服の色は主に濃いグレーだった。しかし、天野奈々が彼の服のコーディネートを好むようになってから、彼の服装の習慣が変わった。

天野奈々が選ぶものを、彼は着る……

天野奈々の指先の温もりが残る服を身につけているこの感覚は、厳しい冬の中で、暗い芸能界全体に向き合う際、彼の心全体が暖かく守られているように感じさせた。