第330章 オーディション

天野奈々は無理強いすることなく、ただ淡々と微笑んだ。

  いわゆる芸能界には、演技力と人気がある者、演技力はあるが人気がない者、人気はあるが演技力がない者の3つのタイプがあるが、映画帝王の森口響は明らかに1番目のタイプに属し、天野奈々は……3番目のタイプにも該当するのは無理があるだろう。

  「大丈夫ですよ、彼はいつもこんな几帳面な性格なんです」と田中助監督は天野奈々に言った。天野奈々が怒って、墨野宙に告げ口するのを恐れてのことだった。

  天野奈々は淡く微笑み、そしてヘル監督の方を向いた。ヘルは友好的に彼女と握手し、フランス語で言った。「最初から言っていたでしょう、あなたは運命だと」

  「一場面演じさせていただき、スタッフの皆さんに私の去就を決めていただけますか」と天野奈々は真剣にヘルにお願いした。