第354章 まだ自分は冤罪だと思っているのか?

西山別荘、楓葉堂書店。

秘書が携帯電話を天野会長に差し出した。「会長、海輝社長からのお電話です。」

「わかった」天野会長は香水のサンプルを置き、秘書から電話を受け取り、退室を促した。

秘書が恭しく退室すると、天野会長は携帯を耳に当て、低く渋い声で「もしもし」と応えた。

「旦那様、こんにちは」墨野宙の声は低く、危険な響きを帯びていた。

「お前が私の孫娘と付き合っている男か?」天野会長は単刀直入に尋ねた。

「墨野宙です」墨野は謙虚でありながらも堂々と挨拶をした。二人の気迫は互角だった。天野会長は年長で賢明ではあったが、墨野もまた落ち着きがあり、測り知れない深さを持っていた。

「ふん、芸能界のような濁った世界に、本物の愛なんてあるものか」

墨野は軽く笑い、天野会長の軽蔑など気にも留めず、ただ尋ねた。「私からお宅に贈り物を送らせていただきましたが、お手元に届いておりますでしょうか?」