第375章 奥さん、大丈夫?

すぐに、天野奈々は撮影クルーと打ち解けて、とても仲良くなった。今では早朝から武術の練習をしていても、監督は彼女を他の人と比べることはなくなった。

彼女は適度に遅刻することで、自分が「勤勉」な人間ではないことを監督に示していたからだ。

撮影クルー全体が徐々に調子を上げていき、特に天野奈々と北川東吾の真摯な姿勢のおかげで、他の俳優たちも緊張感を持って協力するようになった。

天野奈々のこのようなプロ意識の高い態度のおかげで、監督が予定していた15日間のドラマシーンを、天野奈々は5日で全て完了した。このロケ地で天野奈々に残されているのはアクションシーンだけで、最初のシーンは、ワイヤーアクションで後編集でCG処理される「断崖」を飛び越えるものだった。

「奈々さん、あなたの好きなシーンの出番よ……」

「『銃声』まで断ったのは、このワイヤーアクションのためだったんでしょう。今日は満足できるわね。」

共演者たちが冗談を言った。

天野奈々も一緒に笑った。

皆は天野奈々の今日の機嫌が良いことに気付いていたが、それは墨野宙が今日、撮影現場を訪れると約束していたからだということを知らなかった。

なぜだか分からないが、長年連れ添った夫婦なのに、墨野宙に会うことを考えると、天野奈々はまだ心臓がドキドキして、まるで初恋の人に会うような胸の高鳴りを感じていた。

「今日はこの悪天候で、雷雨の可能性があるから、天野さんのアクションシーンは延期します。」

監督が発表すると、全員が手持ち無沙汰になった。

「奈々さん、なんで衣装を着替えるの?延期されただけで、撮影がなくなったわけじゃないでしょう。」冬島香は天野奈々がメイクを落とすのを見て、不思議そうに追いかけた。

「宙が来るの。」天野奈々が答えた。

冬島香はプッと吹き出した。本当は何も気にしないと思っていたのに、墨野宙の前では自分の姿を気にするんだ。「こう見ると、ちょっと酷いわね。でも、映画で見られるんだし、それに墨野社長は気にしないと思うけど。」

「抱きしめたいの……」こんな姿じゃ抱きしめられない。

冬島香は急に黙り込んだ……天野奈々が墨野宙への気持ちを隠そうとしないことを知っていたから。

「奈々さん、待って、手伝うわ。」

冬島香は天野奈々の後を追いながら言った。