第370話 そんなことしないで

翌日、天野茜が天野奈々と和解する約束の日であり、天野奈々が『隠遁の達人』の撮影現場に入る前日でもあった。

「父と母の写真をメディアにリークして、あの女が不倫相手だという証拠も出して、できるだけ大きな騒ぎにして、墨野家の人たちに、あの母娘が汚らわ...」天野茜が汚い言葉を言い終える前に、後ろから携帯電話を取られた。振り向くと弟だったので、ほっと息をついた。「やすのぶ、携帯を返して」

天野剛は黙ったまま、背の高さを利用して携帯を耳元に持っていき、電話の相手に「計画中止」と告げた。

「何をするの？」

「天野茜、信じられないよ。君が僕の実の姉だなんて。その邪悪さは生まれつきなのか？」天野剛は不良っぽい笑みを浮かべながら、携帯を天野茜に投げ返した。「誰を陥れようと、どうしようと、僕には関係ないが、僕の耳に入れないでくれ」

「やすのぶ、これは家族のためよ」

「僕は天野奈々が邪魔だとは思わないけどね」天野剛は髪をかき上げ、冷笑いを浮かべながら自室に戻ろうとした。「そうそう、今は天野家のトップは姉さんだよね。僕が芸能界に入ることに異議はない？」

「冗談でしょう？天野家の四男坊が...」

「これで決まりだ...」天野剛はそう言い残すと、長身の姿は廊下から消えていった。

しばらくして、天野夫人が家に入ってきた。ソファに座る天野茜の目には強い怒りが宿っていた。

天野茜は冷笑し、立ち上がって天野夫人に言った。「この家にいたくないなら出て行けばいい。もちろん、天野家の使用人として働き続けるのもいいけど」

天野夫人は何も言わず、自室に戻ろうとしたが、天野茜は意図的に言った。「あなたが不倫相手だという証拠をメディアに渡したわ。前回は小さな騒ぎで墨野宙にすぐに収めてもらったけど、今回は動かぬ証拠よ！あなたが父を誘惑した方法も...母を殺した方法も！」

「これまで我慢してきたのは、あなたの父の面子を考えてのことよ。でも今は、もうそんなことは気にしない。だから...天野茜、後悔することになるわ」

天野夫人がこの言葉を言った時、目には普段の怒りではなく、解放された後の安堵感のようなものが浮かんでいた。

天野茜は彼女の反応に驚いたが、何か言う前に、天野夫人は自室へ向かって歩き出した。

「待ちなさい...」