雨の夜。
墨野宙は高級車を手配し、母娘二人をホテルまで送り届けた。
墨野玲奈は悲しみを乗り越え、天野奈々と一緒にいることで生き生きとしていた。人の気質は心が決めるもの。善良な人は、菊のように清らかで、優雅な雰囲気を漂わせるものだ。
五つ星ホテルで、芸能人も好んで利用する場所だった。それでも、天野奈々と墨野玲奈の姿は、周囲の注目を集めていた。
夫の真実を暴いた女性、娘を守る母親。彼女から放たれる輝きは、人々の目を引いていた。
「お母さん、一緒にデビューしちゃう?みんなお母さんのこと見てるよ」天野奈々は思わず笑みを漏らした。
「私はもうこんな年なのに、冗談を言うなんて」墨野玲奈は微笑んで、周りを見回した。「墨野宙は?」
「他の用事があるみたい。お母さんの婿はちゃんとしてるから大丈夫!」天野奈々は母を取り戻し、久しぶりに心を開いた。「安心して、すぐ来るから…」