第394章 私が入れば天野茜は出て行かなければならない

雨の夜。

墨野宙は高級車を手配し、母娘二人をホテルまで送り届けた。

墨野玲奈は悲しみを乗り越え、天野奈々と一緒にいることで生き生きとしていた。人の気質は心が決めるもの。善良な人は、菊のように清らかで、優雅な雰囲気を漂わせるものだ。

五つ星ホテルで、芸能人も好んで利用する場所だった。それでも、天野奈々と墨野玲奈の姿は、周囲の注目を集めていた。

夫の真実を暴いた女性、娘を守る母親。彼女から放たれる輝きは、人々の目を引いていた。

「お母さん、一緒にデビューしちゃう?みんなお母さんのこと見てるよ」天野奈々は思わず笑みを漏らした。

「私はもうこんな年なのに、冗談を言うなんて」墨野玲奈は微笑んで、周りを見回した。「墨野宙は?」

「他の用事があるみたい。お母さんの婿はちゃんとしてるから大丈夫!」天野奈々は母を取り戻し、久しぶりに心を開いた。「安心して、すぐ来るから…」

「もう焦らさないで。墨野家の方が心配するわよ」

「私だって心配だよ」天野奈々は墨野玲奈の腕を取り、エレベーターまで歩き、従業員の案内で個室の前に到着した。

「お二人様、どうぞお入りください。他のお客様はすでにお揃いです」

墨野玲奈は突然笑顔を引き締め、身構えるような表情になった。天野奈々も表情を引き締めた。

続いて、個室のドアが勢いよく開かれ、まず目に入ったのは主席に座る天野会長だった。杖を突き、滑らかな杖の表面を指でなでながら、怒りを見せずとも威厳のある様子だった。

天野欽也を見ると、完全に打ちのめされた様子で椅子に寄りかかり、虚ろな目をしていた。昼間に起きた出来事から立ち直れていないようだった。

天野明日野と天野剛は頭を寄せ合って私語を交わし、天野茜だけが二人を見つめ、その表情には鋭い冷たさが込められていた…

墨野玲奈は冷ややかに鼻を鳴らし、天野奈々を連れて席に着き、なるべく夫の方を見ないようにした。

「玲奈よ…」会長は疲れた声で呼びかけた。その声は谷底から響いてくるかのように空虚で違和感があった。「お前がこんな大きな秘密を隠していたとは、本当に思いもよらなかった。この何年も、辛い思いをさせてしまったな」