第434話 彼の出来ないことなんてない!

もともと天野奈々は夜に家に帰れるはずだったが、墨野様の難癖のせいで、柴崎知子に撮影現場の状況を墨野宙に正直に伝えるしかなかった。墨野宙は彼女のどんな決定にも干渉しなかったが、ただ、自分の妻を困らせた人物が誰なのかはよく分かっていた!

見ていろ、今この老いぼれが妻にどれだけの苦労をさせたか、その時には必ず天野奈々の分まで利子をつけて返してやる。しかし今は、墨野様に天野奈々のことを理解してもらうことの方が重要だ。

そのため、彼は柴崎知子に天野奈々が耐えている不当な扱いを一つ一つ詳しく記録するように指示しただけだった。

……

その夜、白川秋人と天野奈々の対面シーンの撮影があった。おそらく昼間の墨野様の小言のせいか、夜の撮影で白川秋人が天野奈々を見たとき、彼女の演技スタイルが以前とは少し違うように感じた。

モデル出身なので、天野奈々は才能はあるものの経験不足で、多くの場合は長所を活かし短所を避ける方法で演じていた。しかし今、彼女は技巧を使いこなせるようになっていた?

二人は今すれ違いのシーンを撮影していた。実際、白川秋人は天野奈々が自分を探していることを知っていたが、彼女が刑事だと分かった時、彼は彼女の側を去るしかなかった。

天野奈々の目に浮かぶ焦りを見て、白川秋人は一瞬我を忘れ、そして...伊藤保に気付かれた:「カット!秋人、どうしたんだ?」

「大丈夫です、監督。もう一度お願いします。」白川秋人は気を取り直したが、心の中では再び葛藤が生じていた。天野奈々を降板させるべきかどうか、本当に分からなくなっていた。

墨野様も夜に天野奈々の演技を見に来て、最後にはただ軽く鼻を鳴らして:「まあ、使えなくもないな」と言った。

墨野様は表面上は難しく当たっているが、結局は自分の孫嫁なのだから、自分が意地悪をするのはいいが、他人がそうするのは許さない。これぞまさに墨野家の方の典型だ。

翌朝、天野奈々の顔色が少し青白かったので、墨野様はなんと寝坊をしてしまった。

天野奈々もテーブルで少し休んでから、昼には墨野様とふらふらしながら他の人の演技を見に行った。

「それぞれの役者には、それぞれの特徴がある。たとえ端役でも、その存在を軽視してはいけない。時には、そんな小さな役が作品全体を成功に導くこともあるのだ」と墨野様は隣の人に小声で言った。