今回は、墨野玲奈でさえ抑えきれないほど驚いた。天野茜がここまで悪辣になるとは、本当に想像もしていなかった。
天野奈々は彼女の様々な嫌がらせを知っていても、彼女を死に追いやろうとは一度も考えなかった。しかし、ある人々は、許してあげても、その恩を忘れてしまうものだ。
墨野玲奈は思わず席から立ち上がろうとしたが、老人が手を伸ばして彼女を押さえつけた。「この件は私に任せなさい。もう二度と、あなたと奈々に辛い思いをさせはしない」
墨野玲奈は老人の断固とした表情を見つめ、しばらく黙った後、再び席に座り直した。
彼女は、老人が本当に心を鬼にできるのかどうか、見守ることにした。
「彼女はもう天野家の人間ではない。だが、お腹の子供は天野家の血を引いている。子供が生まれた後、母娘に相応しい対応をする」
実際、老人がこのように考えるのは当然だった。それは天野家の血筋であり、中村家に渡せば、どうなるか分からない。さらに、天野茜が再び子供を利用して天野家を脅すことが最も懸念された。
「これからは、彼女に騙されることはない」
この言葉を聞いて、墨野玲奈はようやく本当に落ち着いた。今回の老人は冗談を言っているのではないと分かったからだ。
老人は天野茜に何度もチャンスを与えてきたが、その度に利用され、傷つけられ、しかも一度ごとにエスカレートしていった……今回は妹の子宮を摘出しようとまでした。ただ自分との寵愛を争うことを恐れただけで。
天野茜の心には、本当に人間性のかけらもないのだろうか?
墨野玲奈は老人の目を見つめた。その年老いた目の中に、この瞬間、天野茜への嫌悪感だけが満ちていた。
……
部屋の外で、佐藤先生は事の経緯を詳しく説明し続けていた。もちろん、自分は脅迫されて、やむを得なかったという立場を強調した。しかし、そのような綺麗事は他人には通用するかもしれないが、墨野宙の前では、決して見逃してもらえる可能性はなかった。
「私の妻の不妊の噂は、誰が広めたのですか?」
「天野茜が人を使って広めたんです。これは本当に私とは関係ありません……関係ないんです」佐藤先生は慌てて手を振った。
橋本院長は佐藤先生の話すすべてに非常に衝撃を受けていた。墨野宙はもちろんのこと、傍観者である彼でさえ、このような事を聞いて冷静でいられなかった。