ついにその名前を聞いた、墨野社長!
他でもない、天野奈々の夫であり、海輝の社長、墨野宙だ。
そう思うと、中村お母さんの心に寒気が走った。完璧だと思っていた計画が、すでに墨野宙に見透かされていたのだ。
そして中村家は墨野宙に弄ばれ、抵抗する力すら残っていなかった。もし墨野宙がこれほど恐ろしい人物だと知っていれば、天野奈々に手を出すことなど決してしなかった。天野奈々を陥れようとしてから今まで、これほどの時間が経過し、中村家は一歩一歩と墨野宙の仕掛けた罠に落ちていったのだ……
天野奈々と結婚してからは、墨野宙の妻への愛情は世間に知れ渡っていたが、それでも彼の冷酷無情な本質は変わらなかった。
彼の優しさは、最初から最後まで、天野奈々だけのものだった。
「中村夫人、警告しておきますが、中村家がまだ何か動きを……」