数秒の呆然とした後、予想外の狂喜が訪れ、墨野宙は天野奈々を抱きしめ、彼女を胸に強く抱き寄せ、すぐにでも彼らが親になることを伝えたい衝動に駆られた。
天野奈々のお腹から小さな命が生まれ、自分と血のつながった存在が誕生するという感覚に、全身の血が沸き立つような感覚を覚えた。その誇らしさは、この瞬間、彼を完全に包み込んだ。
父親……
これは彼が今まで想像したことも、想像できなかった感覚だった。この感覚は、あまりにも不思議だった。
簡単な身支度を済ませた後、墨野宙は寝室を出て、ソファーで果物を剥いている天野奈々を見つけると、すぐに彼女の手からナイフを取り上げた。「何も触るなって言ったでしょう?」
「ただ果物を剥いているだけよ」天野奈々は、中村さんと一緒に血液検査をしたことが、自分にとってどれほど大きな助けになるのか、この時点ではまったく知らなかった。彼女は墨野宙の過度な心配に困惑するばかりだった。
「今日は、ナイフのような物は片付けて、触らないで」墨野宙は無理のある言い訳をして、天野奈々がナイフを使うのを止めた。
天野奈々は苦笑しながらも、妥協して頷いた。「はい、あなたの言う通りにします」
墨野宙は天野奈々の髪を優しく撫でてから、立ち上がってキッチンに向かった。
医療スタッフ以外で、天野奈々の妊娠を最初に知る人間になるとは思ってもみなかった。おそらく天野奈々本人も予想していなかっただろう。
計算すると、前回天野奈々が深夜に帰宅した時、二人が避妊をしなかった時のものだろう。
すぐに、陸野徹がハイアットレジデンスに到着した。しかし墨野宙の陸野徹への視線は、昨夜の電話の時ほど冷たくなかった。これは陸野徹にとって非常に意外なことだった。
「社長、すべての準備が整いました。いつでも出発できます」
陸野徹の手配の下、墨野宙は天野奈々を連れて黒い車に乗り込み、病院での全身検査に向かった。道中、墨野宙は天野奈々の右手をしっかりと握り、思わず口角が上がっていた。
天野奈々は彼の機嫌が良いことに気づいていた。結婚一周年の記念日だからだと思っていたが、実際は自分のお腹の中に墨野の赤ちゃんがいることが理由だとは、まったく予想していなかった。
墨野宙の表情が明るいのを見て、天野奈々も心が和らいだ。