天野会長は天野家に戻ってから、書斎で一人長い間座り込んでいた。手には墨野宙から渡された黒い箱を持ち、何度も迷った末、結局その箱を金庫にしまい込んだ。なぜなら、中身を見てしまえば、もう一秒たりとも天野茜と一緒にいたくなくなるだろうと分かっていたからだ。
すぐに、天野茜が外から扉をノックした。「おじいちゃん、入ってもいい?」
天野会長は複雑な表情を隠し、ドアに向かって答えた。「どうぞ」
天野茜はドアを開けて入り、明るく笑顔を見せた。彼女は天野会長の側に寄り、その腕にしがみついて揺らしながら言った。「おじいちゃん、妊娠して家にいるの退屈だわ。仕事に行ってもいい?」
仕事か……
天野茜の本性を見抜いてからは、彼女の言葉や行動の全てが、会長の中で無意識に陰謀と結びついてしまうようになっていた。