「墨野社長は紳士の品格を失ったとは少しも感じないのですか?事が大きくなれば、海輝にとっても良いことはないでしょう。お互い一歩譲り合うのはいかがでしょうか?」
「下川社長は私にどう譲歩してほしいのですか?」墨野宙は直接反問した。「下川社長は自分の女を大切にするのに、なぜ私に譲歩を求めるのですか?私の女は、いじめられて当然なのですか?」
墨野宙の言葉は強くも弱くもなく、感情すら感じられないほどだったが……
その疑問を帯びた口調、少しも譲らない態度は、相手に彼の言葉の中にある危険性を深く感じさせた。
「そういうことなら、墨野社長は譲るつもりはないということですね?でも、今の東京の人々は皆、私の味方だということをご存知でしょう」
「下川社長のその発言は笑止です。東京の人々が、是非もわからないほど堕落して暴力団を支持するとは思えません……芸能ゴシップはゴシップですが、善悪の判断くらいは持ち合わせているはずです」墨野宙は直接皮肉った。