第527章 ファンが来場しなかった!

墨野宙は最初から最後まで真剣に見ていた。これは天野奈々にとって、本当の意味での初めての主演だったからだ。

天野奈々は少し緊張した様子で墨野宙を見つめていると、彼の口元に優しい笑みが浮かんだ。

「なぜそんな目で見つめるの?」

「あなたの意見が聞きたいの」天野奈々は答えた。「だって、本当の役者をどう評価すべきか、一番よく分かっているのはあなただから」

「墨野夫人にそこまで崇拝されるとは、光栄ですね」墨野宙は天野奈々を抱き寄せ、彼女の頭に顎を乗せた。「実は何も言いたくないんだ。なぜなら、会場の観客一人一人が、この映画に対する率直な感想を表現していて、私もその一人に過ぎないからね」

「奈々...君はすでによくやっている。これからはもっと上手くなれる。『奇夫』で日本アカデミー賞の新人賞を獲れるはずだ!」