第525章 のし上がろうとする

「ほし……」

今回、天野剛は再び体を向けたが、振り返ることはなかった。感情に疲れを感じ、本当にゆっくり休む必要があると思った。

柴崎知子は天野剛が去っていくのを見つめていたが、彼を引き止める立場も身分もなかった。もう彼女は彼にとって何者でもなく、かろうじて元マネージャーというだけだった。

……

天野剛は一人で地下駐車場に入った。誰も同行していなかった。しかし、駐車場で先ほど対面したよしさんと彼女のマネージャーに出くわした。

「ほしくん、一杯どう?」

「申し訳ありません、よしさん。また今度にしませんか?」天野剛は丁寧に断った。

「あら、私があなたの元マネージャーに迷惑をかけるのが怖くないの?」よしさんは上品に微笑みながら天野剛に尋ねた。「たった一杯だけよ。約束するわ、本当に一杯だけ」