第543章 近藤青子

パートナーへの礼儀と、その女性への好感から、天野奈々は相手との面会を承諾した。

近藤青子も天野奈々の立場上の不便さを理解していたので、自ら訪問することを提案した。

近藤家には行けないのは当然だった。あの狐女が家にいるのに、天野奈々を見たら発狂するに違いない。

天野奈々は熟考した末、近藤青子に対しても警戒心を持っていた。結局、妊娠のことは今のところ公表するつもりはなかった。自宅での面会が最善の選択だと考え、相手の要望を快く受け入れた。

「宙...この近藤青子さん、なぜ私に会いたがっているのかしら?」電話を切った後、天野奈々は近藤青子のこの行動に疑問を感じていた。

「陸野徹が調べたが、率直な性格の人間だそうだ」墨野宙は薄い毛布で天野奈々を包み、彼女を楽に自分の胸に寄りかからせた。

天野奈々も墨野宙の意図を理解した。つまり、付き合っても問題ないということだ。

「はい、分かりました、ダーリン」

墨野宙が家を出てまもなく、近藤青子がハイアットレジデンスに到着した。天野奈々と墨野宙の愛の巣を想像していたものの、実際に目にすると感嘆せずにはいられなかった。このような別荘に住んでいながら、寂しさを感じさせない雰囲気があるということは、普段から天野奈々と墨野宙がいかに真剣にこの家庭を営んでいるかが想像できた。

これは近藤青子が天野奈々に会うのは二度目だった。あの夜の神秘的な気品は消え、完全に家庭的な優しい女性となっていたが、それでもなお、彼女は超然としているように見えた...

「お邪魔じゃないですか?」近藤青子は申し訳なさそうに微笑んだ。

「近藤お嬢さん、どうぞお座りください」天野奈々は穏やかに微笑んだ。

「突然お会いしたいと思った理由を不思議に思われているでしょう」近藤青子はソファに座りながら言った。「実は、特別な理由はないんです。私の気持ちをどう表現すればいいか分からないのですが、ただ、以前日本アカデミー賞であなたのノミネートを妨害していた人物が田中翠だということをお伝えしたくて...」

「あなた...」

「彼女は私の継母なんです」近藤青子は気まずそうに手を広げた。

天野奈々は一瞬驚いたが、すぐに田中翠の年齢を思い出した。間違いなければ、近藤青子よりも若いはずだった。