第561章 墨野さん、自制を

新井光は徹底的に後のことを考えず、目的を達成するためには手段を選ばず、目先の利益だけを追い、長期的な計画など全く考えていなかった。

そのため、天野奈々は新井光を説得できるとはほとんど期待していなかった。

東京の芸能界では、スターたちの間で表立った争いや陰謀があるものの、新井光のようにここまで大胆な行動をとる者は初めてだった。

おそらく暴力団の手法に染まったせいで、新井光は自分の中の暴力性に気付いていなかった。実際、彼女が言う暴力団の親分と同じような存在になっていたのだ。

妊婦に手を出すなんて、しかも妊娠6ヶ月の身だというのに。

この機会を捉えて、天野奈々は助けを求める声を上げた。クイーンズホールを通りかかった人が、天野奈々の叫び声を聞いたのか、すぐにドアを開けたが、多くのボディーガードと新井光を目にして、一瞬躊躇してから逃げ出してしまった……