第579章 誰にも挨拶したくない

新井光は恐怖で体が震え、特に相手が彼女を見つめた時はなおさらだった。

骨の髄まで染み渡るような暗さに、思わず背筋が凍りついた。

新井光は唇を微かに動かしたが、声を出すことができなかった。30分後、警察が来て、新井光の手錠を外しながら言った。「新井さん、保釈が認められました。今、出られますよ。」

出られる……

その言葉を聞いて、新井光はその場に立ち尽くし、長い間動けなかった。

「警官、天野奈々が来るまで待ってもいいですか？」新井光は思わず警察に尋ねた。

若い警官は新井光を一瞥し、笑いながら言った。「拘留されている時は出たがっていたのに、今度は出られるのに出たくないなんて、どういうつもりだ？」

「いえ...ただ...」新井光は言葉を詰まらせた。

「出るのか出ないのか？」警官は苛立ちながら聞いた。

新井光は言いかけては止め、警官を見つめ、しばらく躊躇した後、話そうとした矢先、下川様の助手がスーツ姿でアタッシュケースを持って新井光の前に現れ、「行きましょう。下川様がお待ちです」と言った。

新井光は仕方なく、助けを求めるような目で警官を見たが、警官は彼女の目に込められた深い意味を理解できなかった。

高慢な助手は新井光を前に歩かせ、彼女が自分をどれほど恐れているかを知っていたが、長年裏社会で生きてきた彼は任務以外のことは考えなかった。

新井光の足取りは遅く、何度も振り返って警官を盗み見ていた。エレベーターに乗ってから、冷酷な助手は新井光に言った。「怖がることはありません。そんなに痛くはありませんから。」

その言葉を聞いて、新井光の背筋が寒くなり、無意識に両手を組み合わせた。チンという音とともにエレベーターが到着し、新井光は人混みに紛れて逃げようとしたが、冷酷な助手は彼女をつかまえ、「気をつけて、逃げないように...」と諭した。

新井光は絶望的に目を閉じ、もはや未来に希望を持てなかった。

一行が警察署の玄関を出ようとした時、一台の黒いリンカーンが突然新井光の前に停まった...

そして、お腹の大きい天野奈々が車から降りてきた。彼女と一緒に、帝王のように威厳のある墨野宙と落ち着いた陸野徹もいた。