噂の件は飯島杏が流したという証拠はなかったものの、誰もが彼女の仕業だと確信していた。
天野奈々は中村さんに業界内での噂を探らせたところ、飯島杏が最近、ある新興芸能プロダクションの社長と親密な関係にあり、さらにはホテルにも…という情報が返ってきた。
「私の知り合いに山田社長のことを探らせています。一晩待ってください」と中村さんは天野奈々に報告した。
「こういった成り上がり者が芸能プロダクションを立ち上げる目的はただ一つ、デビューを夢見る新人たちを食い物にすることよ。色と金のためなら手段を選ばない。分かるでしょう?」と天野奈々は含みのある言い方で中村さんに伝えた。「目立たないように証拠を押さえてね」
「承知しました」と中村さんは興奮を隠しきれない様子で答えた。久しぶりに業界で暴れられると思うと、ワクワクが止まらなかった。
山田社長のような人物なら天野奈々が直接会う必要もないが、『TheSavageWars』の監督とは…会ってみる価値はありそうだった。
「最後に、アメリカ人監督とのアポイントを取ってもらえる?いくつか聞きたいことがあるの」
「問題ありません」と中村さんは即座に了承した。
天野奈々と共に数々の荒波を乗り越えてきた中村さんは、彼女の行動パターンをよく理解していた。天野奈々が動けば、必ず誰かが不幸な目に遭うのだから。
……
安藤皓司にはマネジメントチームがなく、今回のスキャンダルで彼の弱点が完全に露呈した。今は広報対応できる人材もいない。
中野監督には既に説明を済ませており、監督からも明確に、今回の噂が晴れなければ助監督の職を続けることはできないと告げられた。中野監督の潔癖な性格は十分理解していたので、監督を満足させる決着をつけると約束した。
自分の不注意は認めざるを得なかった。このような時期に、ちょっとした過ちが取り返しのつかない結果を招くことは分かっていたのに、清水星華を甘やかしすぎてしまい、大きな過ちを犯してしまった。
そう考えると、今朝は清水星華に十分な説明もできないまま出てきてしまった。彼女の性格を考えると、どんな問題を起こすか心配だった。
心配のあまり、安藤皓司は帰宅を諦めて清水星華のアパートへ向かった。しかしエレベーターを降りると、部屋のドアが半開きになっているのが見えた。