「どんな薬?」椛木千鶴は知らないふりをした。
「キニーネだ」墨野宙は口から三文字を吐き出した。深い響きと危険な雰囲気を帯び、もちろん、脅しの意味も込められていた。
椛木千鶴はこのような墨野宙に恐れおののいていたが、表面的な冷静さを何とか保ちながら、否定し続けた。「私には何を言っているのかさっぱり分からないわ。宙、母親にこんな態度をとるの?」
「母親かどうかは置いておいて、キニーネを知っているかどうかだけ答えろ」
椛木千鶴は墨野宙の目を直視せざるを得なくなった。帝王のような殺気を帯びたその双眸に震え上がり、まったく動けなくなった。実は心の中では、もしこのまま強がり続ければ八つ裂きにされるだろうという声が聞こえていたが、認めるわけにはいかなかった。
「私は生物学の専門家よ。キニーネくらい知っているわ。宙、一体何が言いたいの?」