第764話 制作陣に男性主役の名前公表を強く要求

「確かに私はできないけど、木村いずみならできる」墨野宙は優しく微笑んだ。

天野奈々と墨野宙がワンテイクで成功した理由は単純で、撮影準備の段階で、墨野宙が天野奈々と何度も演技の練習をしていたからだった。

「家に帰ったら、あなたと清算するわよ！」天野奈々は軽く鼻を鳴らした。

墨野宙は愛情たっぷりの笑顔を返した。

「ハハハ、今回の『法醫學皇妃』は絶対に隣を打ち負かすぞ！」現場のスタッフたちは異常な興奮を見せていた。

墨野宙の参加により、撮影現場全体が活気づいていた。全員が異常なほど勤勉で、自分のパートの撮影が終わっても現場に残り、天野奈々と墨野宙の演技を見学していた。

二人の針と剣のような鋭い演技の掛け合いは、スタッフたちに演技を学ばせると同時に、心を揺さぶるものだった。

彼らはまるでテレビの視聴者のように、天野奈々と墨野宙の甘いシーンを見ては馬鹿みたいに笑い、心を引き裂くようなシーンでは涙を流していた。

「すごい、編集後の完成品が本当に楽しみだ」

「でも隣の現場はもう半分以上撮り終わってるよね」

「気にすることないよ。向こうが早く始めただけさ。それに、この調子なら追いつくのも時間の問題だろう」

「天野さんと墨野社長の演技の掛け合いを見るのは痛快だよね」

もちろん、これらは全て撮影現場内部の出来事で、完全に外部から遮断されていた。墨野宙は撮影のない時は海輝に出向き、公の場に姿を見せ、まるで演技をしているような素振りも見せなかった。実際、彼は天野奈々との心を揺さぶるような演技を楽しんでいた。少なくとも『法醫學皇妃』は彼を満足させていた。木村いずみと風子の間の愛憎が、この作品を非常に充実した完成度の高いものにしていたからだ。

一方、この期間中、『邪悪な妃』の情報は絶え間なく流れていた。

白川結は『法醫學皇妃』の情報を得られず、落ち着かない日々を送っていた。

衣装合わせの写真で既に大きく差をつけられた彼女は、天野奈々に追い抜かれることを恐れていた。

そこで、彼女はパパラッチを雇い、撮影所に潜入させて『皇妃』の男性主演の情報を探ろうとした。しかし、『皇妃』のスタッフは全員が厳選され、教育されていたため、探りを入れに来た者に対しては笑顔で「私たちの作品では、演技経験のない新人俳優を起用しています」と答えるだけだった。

「本当ですか？」