「そんなことはありません」墨野宙は天野奈々の手をしっかりと握りしめた。結婚して2年以上が経ち、お互いの感情は骨の髄まで深く染み込んでいた。天野奈々は確かに緊張していたが、墨野宙に慰められると、突然リラックスした。この男性が傍にいれば、賞を取れるかどうかなんて、どうでもいいことだった。
すぐに、黒いロールスロイスは日本アカデミー賞の会場に到着した。レッドカーペットの端で、天野奈々は墨野宙の腕を組んで階段を上がった。二人の登場に、記者たちは柵を突き破りそうなほど興奮したが、墨野宙がいる以上、その勇気は誰にもなかった。
「天野さん...墨野さん...」
「天野さん...こちらを向いて、奈々さん」
「墨野パパ、私たちの天野奈々をしっかり守ってあげてね」
遠くから、ペンライトを持ったファンが墨野宙と天野奈々に向かって大声で叫んだ。天野奈々は思わずその方向に微笑みかけ、すると墨野宙は天野奈々を半ば抱きかかえるように抱擁し、その親密な様子にファンは大興奮した。