第848章 彼女を悩ませたくない

夏目栞は直接スーパースターに戻った。というのも、アパートのほぼすべての部屋に隠しカメラが設置されていたからだ。

中村さんは彼女に服を渡しながら言った。「あそこにはもう住めないわ」

「今、すべてを明かすべき時なの?マネージャーが他にどんな証拠を持っているのか分からないし、それに…」

夏目栞は全身が震えていた。長い間、他人の監視下に置かれていたことを想像すると恐ろしかったからだ。

「くそ、こんな気持ち悪いマネージャー見たことないわ。業界のルールを全部台無しにしやがって」中村さんは思わず汚い言葉を吐いた。

天野奈々は二人を見て、中村さんに指示を出した。「まず、そのゴミと長期的に協力しているパパラッチを押さえて、できるだけ夏目栞に有利な証拠を引き出して」

「それは朝飯前よ」中村さんはOKサインを作った。

夏目栞はアパートに戻る勇気がなく、スーパースターのスタジオで一人長時間過ごした。

午後になって、中村さんから連絡が入り、関連する証拠を入手し、パパラッチの口も完全に封じたとのことだった。結局のところ、スターメディアと海輝は密接な関係にあり、パパラッチも少しの利益のために命を賭ける気にはなれなかった。

「今なら、あなたのマネージメント会社に行って、このマネージャーを処分する気があるかどうか確認できるわ」

「おそらく…簡単ではないでしょう」

「難しいのは分かってるわ。でも、犬同士が噛み合うのを見るだけよ。あなたはいずれ千影メディアを離れることになるわ」天野奈々は静かに言った。アーティストとしての時は常に自分の立場を意識し、プロフェッショナルに徹していたが、マネージャーになってからは、彼女の持つ有能な資質が一気に表れた。

「私の言う通りにすればいいの…」

夏目栞は熟考の末、最終的にうなずいた。

夏目栞は夜のイベントを気にする必要はなくなったが、わがままだという評判を立てないために、天野奈々は中村さんに処理を任せた。

その後、夏目栞は一人で千影メディアに車を走らせた。マネージメント会社として、千影メディアは業界で特に有名というわけではなかったが、何人かの売れっ子の若手アーティストを抱えていた。

夏目栞は会社に入るなり、社長の秘書に告げた。「田中社長に会いたいのですが」