第858章 この娘、なかなか度胸がある

その後、二人はテーブルに座り、まるで以前と同じように過ごしていた。

しかし、しばらくすると権守夜は権守お母さんからの電話を受けた。だが、彼は加藤静流を避けることなく、彼女の前で直接通話した。「うん、撮影の都合で引っ越したんだ。」

「お父さんがもうすぐ還暦を迎えるのよ。どうあれ、時間を作って帰ってきなさい？」

「その時になってから考えるよ。」権守夜は答え、その後電話を切った。

数秒後、加藤静流の携帯が鳴り、電話をかけてきたのは同じ人物だった。加藤静流は数秒間呆然としてから、やっと電話に出た。「お母さん……」

「お父さんの還暦だから、帰ってきなさい。」そっけない一言を言い終えると、権守お母さんは加藤静流の反応を待たずに電話を切った。

加藤静流は携帯をしまい、何事もなかったかのように食事を続けたが、権守夜は彼女の表情を注意深く観察していた。

「怒ってる？」

「そんなに小さい人間じゃないわ！」加藤静流は顔を上げて答えた。「あなたはあなた、お母さんはお母さん、それくらい分かってるわ。」

「じゃあ、たくさん食べて。全部君の好きなものだから……」

加藤静流は最初、無駄よ、私たちはずっと一緒にはいられないと言おうとしたが、権守夜が上機嫌なのを見て、結局その言葉を口にすることができなかった。

悲観的なわけでもなく、幸せを求めることを拒んでいるわけでもない。ただ、最後に権守夜が傷つくことを恐れていた。彼女は最も大切な人を傷つけたくなかった。

……

午後、墨野宙と天野奈々は、ついにジョナサンのプライベートアイランドに到着し、彼の家族に来意を説明した。

しかし、ジョナサンの娘は天野奈々を直接拒否し、立ち去るよう求めた。「父はようやくこの執念から解放され、病から立ち直ったんです。もう映画に関わってほしくありません。今の穏やかな生活の方が、父に相応しいと思います。」

「橋本さん、これがあなたたちの傷を開けることになるのは分かっています。でも、橋本監督がどんなにうまく取り繕っていても、人生の願いは史上最高のSF大作を撮ることなんです。これは数十年来の執念で、諦めるのがどれほど難しいか分かりますか？」

「もしあなたたちが挑戦させないなら、今は従って幸せなふりができても、時間が経てば、彼は夢と願いを捨てきれないことに気付くでしょう。」