第915章 私の本当の薄情さを、あなたはまだ見ていない

「中村さん、分かっています。こんなことを言うのは少し行き過ぎかもしれませんが、私はただ天野奈々に会いたいだけなんです」

中村さんは、今夏目栞に何を言っても無駄だと分かっていた。彼女の心は田村青流にしかないからだ。彼女は、みんなが自分と田村青流のことを誤解していると思い込んでいた。

中村さんは頭を下げ、しばらく考えてから、最後に天野奈々に電話をかけた。「夏目栞があなたに会いたがっています」

「できれば、加藤静流にも会いたいです」

夏目栞の頭の中は、今、田村青流の潔白を証明することだけで一杯だった。彼女は、この件は全て加藤静流が仕組んだものだと、みんなに伝えたかった。

この事件は、最初から最後まで加藤静流が仕掛けた罠だった……

おそらく、これが所謂、当事者は物事の本質が見えないということなのだろう。