第987章 彼は私の神様そのもの

「それは……」

「それは、私が手を出さなかったからだ」墨野宙が彼の代わりに答えた。「人は自分の幸せのためだけに生きているわけではない」

「私の欲深い義兄を買収するために、かなりの出費があったでしょうね？」佐藤社長が嘲笑った。

「構わない。どうせ、最終的には私の手に戻ってくる」墨野宙は優雅に答えた。「それに、ゲームをするからには、賭け金を惜しんではいけないだろう？」

暗闇の中、佐藤社長は少し距離を置いて、ソファに座る墨野宙を見つめ、突然、寒気を感じた。

なぜなら、この瞬間、彼はついに気づいたのだ。一部の人間には、確かに手を出してはいけないと。

「それに、あなたの初恋の人が、あなたが彼女の弟をこんなに守ろうとしていることを知っていたら、死ぬことはなかったでしょうね」

古い記憶を墨野宙に蘇らせられ、佐藤社長は突然目を潤ませた。

「墨野、もし彼に手を出したら、必ず生きた心地がしないようにしてやる」

「そうかな？」墨野宙は暗闇の中で佐藤社長に問い返した。「私を倒せると思っているのか？それなら、ゲームを続けようじゃないか」

そう言うと、墨野宙はボディーガードに合図を送り、ボディーガードの一人が居間のドアを開け、外で待っていた人々を中に入れた。

そのとき、佐藤社長は自分の弁護士を目にした。

「佐藤社長……」弁護士は警察官を伴って居間に入り、墨野宙に向かって言った。「墨野社長、これは違法です。これは不法監禁です」

そう言うと、弁護士は急いで佐藤社長の前に進み、墨野宙のボディーガードに向かって言った。「手を放してください」

墨野宙の指示で、ボディーガードは佐藤社長を解放し、その時、佐藤社長は弁護士に言った。「墨野が持っている資料を取り返さなければならない」

弁護士は墨野宙を一瞥し、またボディーガードを見た。「佐藤社長、それは適切ではありません。まずはあなたの安全を確保しましょう」

確かに、もし墨野宙がこの時点で資料を警察に渡せば、状況は非常に悪くなるだろう。

「墨野社長、今日起こったことすべて、私佐藤は心に深く刻み込んでおきました。これからが長いですからね」そう言って、佐藤社長は弁護士の保護のもと、別荘を後にした。出る際、佐藤社長は自分の姉と義兄を見かけた。

墨野宙は淡々と微笑み、追いかけることもせず、そのまま居間に座り続けた。