地下駐車場で、マスクをした近籐正明は車に乗り込んだ。
アシスタントは慌てて化粧直しをしながら愚痴をこぼした。「もう、外にはパパラッチがいっぱいなのに、どうしてそんなに堂々と姿を見せるんですか!」
そう言いながらも、実際は池村琴子に対する不満だった。
あの女は綺麗なだけで、近籐正明が直接会う価値なんてどこにあるの?彼女は正明があの女にみかんの皮を剥いてあげるところまで見てしまった。
彼女の正明がこんなことをしたことなんてあっただろうか?
「明日のニュースはどうなるか分からないわ。この女性とは今後会わない方が…」言葉が終わらないうちに、近籐正明に冷たい視線を向けられた。
「私のすることにいつから口出しできるようになった?」
「口出しするつもりじゃないんです。正明さん、会社がこのことを知ったら、私たちをどう罰するか分かっていますか?」
「どう罰する?」近籐正明は物憂げに後ろに寄りかかった。「不満なら契約解除すればいい。違約金は私が払う」
アシスタントは驚いて口を開けた。
近籐正明は彼女のために会社との契約解除も辞さないというのか。
あの女は一体何者なんだ。
近籐正明は窓の外を見つめ、その美しい瞳には笑みの欠片もなかった。
……
池村琴子は車に乗り込み、小さなアシスタントの絶え間ない話を聞いていた。
「奥様、遠慮なさらずに、男性に求める条件を何でも教えてください。私が探してきます」
彼女に男性を紹介する?
「それは、遠慮しておきます」池村琴子は言葉を濁した。
「遠慮することはありません。離婚後は、より多くの選択肢がありますから。ご安心ください、あなたの要望に合わせて、良い男性を選びます」
山本正博のアシスタントの口から出たその言葉に、彼女は居心地の悪さを感じた。
彼女は綺麗な目を丸くして、落ち着かない様子で山本正博を一瞥したが、彼の表情は淡々としており、このような話に全く関心がないようだった。
成一が理由もなく彼女に男性を紹介するはずがない。誰かに指示されたに違いない。
「成一さん、もう奥様とは呼ばないでください」池村琴子は苦笑いを浮かべた。「私はもうあなたの上司と離婚しましたから」
まだ正式な手続きは済んでいないが、二人は既に離婚を了承していた。
残るは手続きだけだ。