高橋姉帰は目を見開いた。
鈴木羽はいつ録音を始めたのだろう?
高橋姉帰は震えが止まらず、池村琴子を一瞬も目を離さずに見つめた。
「母さんがなぜ録音したの?」高橋謙一は眉をひそめ、高橋姉帰を見た。「何か問題のある会話でもあったの?」
高橋姉帰は唇を震わせ、心臓が激しく鼓動した。
絶望と屈辱が心に押し寄せた。
なぜ録音したのか。それは鈴木羽が彼女を信用していなかったからで、最初から証拠を残すつもりだったのだ。
彼女は本気で自分を刑務所に送るつもりで、容赦するつもりはなかった。
高橋姉帰の心にあった僅かな罪悪感は完全に消え去った。
鈴木羽は本当に自分を実の子供として扱っていなかったのだ。こんな手段まで使うなんて!
40分以上の録音を見て、高橋姉帰は死人のように青ざめた。
「たぶん誤って押してしまったんだろう」高橋敬一は高橋姉帰を見て、彼女が俯いて悲しそうな様子を見て、唇を固く結んだ。
彼も母親が彼女との会話を録音した理由を知りたかった。
高橋謙一は急いで携帯を取った。「ちょうどいい機会だから聞いてみよう。母さんが何を録音したのか」
彼は再生ボタンを押した。
高橋姉帰は全身の血が抜けるような感覚で、心臓が止まりそうになった。
もう秘密が隠せないと思った瞬間、高橋謙一の不満げな声が聞こえた。「どうなってるんだ、押しても反応しない。この携帯壊れてるよ」
他のボタンも押してみたが、まったく動かなかった。
「落として壊れたんでしょう」池村琴子は小さくため息をつき、携帯を考え深げに見つめた。「私に任せて。直せると思います」
高橋謙一は彼女に携帯を渡した。
高橋姉帰はようやく安堵の息をついた。
……
翌朝早く。
山本邸で、山本正博は適当に上着を手に取って外に向かおうとしたところ、吉田蘭が山本宝子を連れて彼を止めた。
「どこに行くの?」吉田蘭は不機嫌そうな顔をして言った。「記者やメディア、友人たちもあなたの回答を待っているのよ」
「病院だ」山本正博は表情を変えずに歩き続けた。
山本宝子が彼の前に立ちはだかった。
この小さな人を見て、山本正博の瞳孔が深く沈んだ。
山本宝子は山本正博の深い瞳に出会うと、勇気が萎えて首を縮めた。「パパ、泰子伯母に会いに行くの?」