第269章 ドロドロな人生

木村爺さんはレストランでお茶を飲みながらニュースを見ていた時、執事が入ってきて、ドア際で静かに告げた。「鈴木さんが娘さんを連れていらっしゃいました」

木村爺さんはお茶を持つ手を止めた。「どちらの娘さんだ?」

「お姉さんの方です」

長女なら、近藤愛だ。

かつて彼もこの娘を気に入っていた。性格が良く、孫の嫁に相応しいと思っていた。

あの愚かな孫のことを思うと、深いため息が漏れた。

この孫は息子夫婦の子供で、本来なら木村家の正統な長男だったが、生まれてまもなく転んで頭を打ち、知的障害を負ってしまった。木村家の名誉を守るため、この孫の存在は厳重に隠されていた。外部の人間は知っていても口にはできず、むしろ正博の方が木村家の私生児として広く知られていた。

正博は当時、山本家にいることを望み、戻る意思を見せなかった。そこで彼は、この知的障害のある孫に嫁を迎える考えを持った。

鈴木家の近藤愛は非常に気に入っていたが、残念ながら鈴木正男は頑固者で、どうしても承諾しなかった。

最近の鈴木家の窮地を思い、木村爺さんは意味ありげに言った。「通してやれ」

鈴木正男は目を赤く腫らした鈴木愛を連れて入ってきた。

木村爺さんは鈴木正男に手を振った。「正男君、久しぶりだな」

そう言いながら、横目で鈴木愛を観察した。身なりは整っており、立ち振る舞いは優雅で、顔立ちは凛としていながらも優しさが感じられた。

「木村伯父」鈴木正男は腰を下ろし、誠実な口調で言った。「お願いしたいことがありまして…」

彼の言葉が終わらないうちに、木村爺さんが言葉を引き取った。「南條商に関することかな?」

彼は年齢は高いものの、常にビジネス界の動向に注目していた。家に後継ぎがいないため、心配性な性格が身についており、商界や政界に何か動きがあれば、すぐに知ることができた。

南條商が他社と連携して鈴木グループを排除しようとしている件についても、すでに把握していた。

南條商が本気を出せば、鈴木家は高橋家と手を組まない限り勝ち目はない。しかし高橋進は今、病院に横たわっており、生死は不明。しかも最近二人は仲たがいしたとも聞く。これにより南條商は鈴木家への締め付けをより容易に進められるようになった。

鈴木グループは今や孤軍奮闘の状態で、木村家は南條家と対抗できる唯一の存在だった。