第274章 子供の姓は何か

山本正博は「うん」と返事をし、窓の外に目を向けた。池村琴子が動き出したことを思い出し、その眼差しが柔らかくなった。

以前は彼女が孤児だと思い込み、必死に守ろうとしていた。彼女に嫌われても説明せずにいたが、彼女がこれほど凄い人物だと知った今、どう接すればいいのか分からなくなっていた。

彼女は高橋家の行方不明になった娘で、上には三人の兄がいて、背後には強大な組織がある。

彼女は孤児ではない。彼が守る必要もないし、誰かに守られる必要もない。

そう考えると、山本正博の胸が締め付けられるような痛みを感じた。大きく息を吸っても、この動悸は収まらなかった。

骨ばった指が強く握りしめられ、額に細かい汗が浮かび、しばらくしてようやく落ち着きを取り戻した。

そのとき、携帯が鳴り、メッセージが届いた:山本正広があなたに会いたがっている。