池村琴子は笑顔で松田柔子を見つめ、女性からの敵意を感じ取った。
この松田柔子は仕事のためだと言い張っているが、先ほどの行動はあまりにも親密すぎた。
山本正博の期待に満ちた眼差しに応え、池村琴子は眉を上げ、静かに言った。「もちろん、気にしませんよ」
気にする立場でもないし。
その言葉を聞いて、山本正博の目の輝きが徐々に薄れていった。
気にしない、本当に気にしていないのだろうか?
池村琴子が無関心そうに笑っている様子を見て、山本正博の心に焦りが湧き上がった。
松田柔子は嬉しそうに彼に微笑んで言った。「では、部屋で話しましょう。前回おっしゃった投資案について考えてみたんですが...」
「可乃子さん」山本正博は彼女の言葉を遮った。「申し訳ありませんが、今日は仕事の話をする気分ではありません」
言葉を遮られ、松田柔子の笑顔が凍りついた。目が自然と池村琴子に向けられ、指が少し縮んだ。
既婚で妊娠中の女性なのに、こんなにも魅力的なんて。木村勝一の心が彼女に奪われるのも無理はない。
松田柔子は認めざるを得なかった。高橋仙には人を魅了する資質があると。
でも、私は他の女性とは違う。私には待つ余裕がある。
「では仕事の話はやめましょう。高橋仙姉さんについて、あなたが興味を持ちそうな話があります」
山本正博は唇を固く結び、瞳の奥は深く、読み取れないものだった。
池村琴子は既に階下に降りており、まるで二人の会話の時間を作ろうとしているかのようだった。
この元妻は、相変わらず気が利く。
しかし、このような気遣いは、まるで火のように彼の心の中で燃え上がった。
松田柔子は続けた。「私の父と木村伯父は親友で、木村伯父はあなたの結婚について話していました。最初の奥さんは長くは続かないだろうと...」
それを聞いて、山本正博の瞳孔が縮んだ。
松田柔子が言う木村伯父とは、祖父の息子、つまり彼の実の父親、木村利男のことだ。
記憶の中で、木村利男に会ったのは一度だけだった。山本正広の事件の直後、木村利男が現れ、彼の出生の秘密を明かした。実の父親は山本姓ではなく木村姓だと告げられたが、当時の彼はそれを信じず、山本家を離れることも拒んだ。
その後、木村利男が亡くなったと聞いても、最期に会いに行くことはなかった。