しかし彼女が反応する前に、後藤若奈が先に彼女を見つけてしまった。
彼女は小林悦子に尋ねるような目を向け、高橋忠一も振り向いた。
小林悦子は汗ばんだ手のひらを握りしめ、足が地面に釘付けになったかのように動けなかった。
高橋忠一は後藤若奈に何か二言三言話してから、小林悦子の側に来て「小林さん」と声をかけた。
小林悦子は極度に困惑し、手提げ袋を高橋忠一に押し付けて逃げ出そうとしたが、「待って!」と呼び止められた。
高橋忠一は早足で近づき、手提げ袋を横のテーブルに軽く置き、テーブルを軽く叩いて「ここで待っていて」と言った。
そして彼女の前にメニューを置き、優しい声で「食べたいものや飲みたいものを注文して、私の仕事が終わるまで待っていて」と言った。
小林悦子は心臓が跳ね、その言葉に顔から首まで赤くなった。