第352章 彼女を手に入れる

「誠治と私には婚約があって、おじいさまもご存知です」松田柔子の表情が一瞬崩れた。

木村爺さんは頷き、木村誠治に向かって言った。「あの時、お前の父親の遺言で、松田柔子を我が家の嫁にしろと言われた」

「遺言ですか?」木村誠治は美しい目を少し細め、「父の遺言は、弟には効き目がないでしょうね?」

木村爺さんの呼吸が一瞬止まった。

効き目がないどころか、公然と逆らうだろう。

他人は知らないが、彼は知っていた。木村勝一が最も嫌っているのは木村利男で、嫌悪に近いほどだった。

もし松田柔子が父親に用意された嫁だと知ったら、おそらく一生彼女に会いたくないと思うだろう。

「すべては高橋仙のせいだ。彼女がいなければ、正博もこんなに疎遠にはならなかったのに」

木村爺さんは深いため息をつき、木村誠治の目の奥で光が揺らめいた。

「そうだ、誠治よ、お前も病気が治ったんだから、好みの女の子を探してみたらどうだ。結婚さえすれば、爺さんは木村家をお前に任せる。正博には、もう期待していない」

彼は年を取り、あとどれだけ生きられるかわからない。

自分の体のことは分かっていた。おそらくそう長くは生きられないだろう。

自分の結婚について話が出ると、木村誠治の脳裏に優しさの中に慌てが混じった顔が浮かんだ。

鈴木愛は彼氏がいると言ったが、彼は信じなかった。その夜すぐに彼女の恋愛歴を調べた。

案の定、予想通り、鈴木愛は誰とも付き合ったことがなく、生まれてからずっと独身だった。

さすが彼が目をつけた女性だ、こんなに慎重で自重している。

木村誠治は唇の端を上げ、目に執着の色を帯びていた。

鈴木愛か、必ず自分の手で落としてみせる。

鈴木家で、ソファに座って本を読んでいた鈴木愛は思わずくしゃみをした。

彼女は本を置き、頭の中は混乱していた。

木村誠治が知的障害から正常に戻ったと知ってから、勉強する気も仕事をする気も起きなかった。

前回家で問題が起きてから、父は会社の大部分の仕事を彼女に任せていた。

父には息子がおらず、長女である彼女は自然と長女としての責任を担うことになった。

しかしここ数日会社に行くと、部下や同僚は常に木村誠治のことについて聞いてきた。