「そうかもね」池村琴子は口を尖らせ、心の中で冷ややかに笑った。
彼女は彼が他人と一緒に風呂に入ったことを責めていないのに、山本正博は逆に彼女を責めているのか?
山本正博が振り返りもせずに木村家の車に乗り込むのを見て、池村琴子は歯を食いしばり、キャンピングカーの方へ歩き出した。
車のドアの前まで来て、思わず振り返った。
山本正博は彼女の視線を感じたかのように、彼女の方を見た。
目が合うと、山本正博は目をそらした。
池村琴子は冷笑し、車に足を掛けると、高橋謙一が慌てて彼女を支え、お腹の赤ちゃんを心配した。
無侵襲DNA検査の結果がまだ出ていないこと、お腹の子の生死が未定であることを思うと、池村琴子の目が熱くなった。
コンテストの敗北に加え、山本正博のこのような態度、どんなに強い心も今は穴が開いたようだった。
彼女が車に乗り込むと、突然声が聞こえてきた。「池村さん、池村さん、お待ちください!」
池村琴子は足を止め、自分に向かって走ってくる女性を見た。
ショートヘアにスーツ姿、長い脚にハイヒール、凛とした印象の女性だった。
「池村さん、こんにちは。私は上田先生のアシスタントの山崎雅子と申します」ショートヘアのアシスタントは名刺を差し出し、丁寧に言った。「上田先生が今日のコンテストでのあなたのデザインを購入したいとおっしゃっています。価格は池村さんのご希望通りにさせていただきますが、いかがでしょうか」
価格の話を先にするということは、相手が本当に価格を気にしていないということだ。
「上田先生」という言葉を聞いて、池村琴子は表情を変えずに微笑んだ。
近籐正明から聞いていた。主催者のオーナーは上田姓で、上田従雲という名前だと。
「山崎さん、おっしゃる上田先生というのは、上田従雲さんのことですか?」
山崎雅子は頷いた。「はい、上田先生はあなたのデザインを高く評価されています」
池村琴子は意味深な笑みを浮かべた。「そんなに私のデザインを評価してくださるなら、なぜ私を不当に落とされたのですか?」
こんな直接的な物言いは予想外で、山崎雅子はその場で固まり、表情が凍りついた。
一瞬の間、気まずい空気が流れた。