池村琴子は後藤若奈を一瞥し、彼女の胸の名札が見覚えのあるものだと気づいた。
今日来た人の多くは企業を代表して来ており、胸の名札には通常会社名が記されていた。
池村琴子が近づき、後藤若奈の名札の文字をはっきりと見たとき、細長い眉を少し上げた。
「あなたは高橋グループの代表なの?」池村琴子は厳しい口調で、後藤若奈の放心した思考を現実に引き戻した。
後藤若奈は慌てて名札を隠し、思わず一歩後ずさりした。
この名札は高橋忠一の古い秘書に懇願して手に入れたものだった。
後藤若奈のこの反応を見て、池村琴子は察した。
今回、小林家が招待したのは兄のはずだが、兄は最近忙しく、後藤若奈がその隙に名札を持ち出したのだ。
「兄の名札を勝手に使ったの?」
「い...いいえ...」後藤若奈は慌てて手を振った。「高橋社長が忙しくて、本来は斎藤秘書が来るはずでしたが、斎藤秘書も他の用事があって、それで...」