第500章 懇願

池村琴子は彼を構わず前に引っ張っていき、山本正博は手を引いて止めた。「琴子、お前...」

「毎晩冷水シャワーを浴びてたでしょう?」池村琴子は冗談めかして横目で彼を見た。「浴室に私の写真を置いて、給湯器も付けずに、それでも毎晩お風呂に入ってたわね」

山本正博の表情はどんどん硬くなり、最後には真っ赤になった。「お前...全部知ってたのか?」

「山本正博、したいなら思い切ってすればいいのよ。もう夫婦なんだから、恥ずかしがることないわ...」池村琴子は彼の首に腕を回し、にっこりと笑った。

彼女の言葉には多少冗談めいた要素があった。ただ山本正博が落ち込む姿を見たくなかっただけだ。

彼が落ち込むのを見るたびに、彼女は耐えられなかった。

他人は彼女の人生が波乱万丈だと言うが、彼女が見た中で最も波乱に満ちた人生を送ったのは山本正博だった。