「お嬢さん、後藤若奈様のお立場をご存知ないのでしょうね?」吉田経理は小林悦子を軽蔑的に一瞥して言った。「後藤若奈様は、我が社長の婚約者になる可能性がある方で、現在は高橋社長の実習助手を務めていらっしゃいます」
そう言いながら、吉田経理と隣の受付嬢は、他人の不幸を喜ぶような笑みを浮かべた。
この詐欺師も運が尽きたな、まさに鉄板に当たってしまったというわけだ。
吉田経理の説明を聞いて、後藤若奈は少し心虚になった。
高橋忠一に否定されるまでは、彼女もそう思っていた。しかしあの日、父親から職位も高橋家の奥様の座も諦めるように言われ、一日一晩中泣き続けた。
物心ついた時から高橋忠一に憧れ、彼のために良い学校を目指して頑張ってきたのに、卒業を目前にして、家族からその考えは間違いだと告げられ、どうして受け入れられようか。