唐沢行が入り口に着いたところで、福田元の必死の叫び声が聞こえた。「唐沢社長!唐沢社長、待ってください!断るとは言っていません!今日の取引は絶対にやります。いくらでも構いません。行かないでください!」
福田家がこんな状態になるのも当然だ。こんな馬鹿者の手に落ちれば、早晩潰れるのは目に見えている。唐沢行はこんな駆け引きの手を使う気にもならなかった。ビジネスの世界で磨き上げられたこの手法は、福田元のような愚か者には単純すぎるのだ。
唐沢行は福田元に背を向けたまま、満足げな笑みを浮かべ、加藤恋にメッセージを送った。
しばらくしてから、ゆっくりと口を開いた。「では、良い取引関係を築けることを願っています」
……
この時、福田隼人の事故の知らせが福田のお婆様の耳に入り、お婆様は息が詰まりそうになって気を失いかけた。
40階建てのビルの中は、かつての賑やかで忙しい様子は全くなく、目に入るものは全て寂しげだった。オフィス内の多くの書類は床に散らばったまま放置され、ビル全体でわずか十数人の従業員しか残っておらず、誰も仕事に集中せず、むしろ無気力に机に伏せていた。
誰もが福田家が終わったことを知っていた。会社の人々は去る者は去り、逃げる者は逃げ、残っているのは役立たずの下層社員ばかりで、最低賃金で会社が完全に潰れるまで粘る覚悟でいた。その中には不満を抱えている者も多く、未払いの給料がなければとっくに辞めていただろうと、誰が倒産寸前の会社に時間を無駄にするかと思っていた。
オフィス内は寂しい雰囲気だったが、最上階の社長室は爆発寸前だった。福田のお婆様の声は遠くからでもはっきりと聞こえた。
普段は姿を見せない株主たちも今は皆の前に現れ、下層の従業員たちは彼らの険しい様子を見て、心の中で不吉な予感を感じていた。
しかし福田のお婆様は福田鐵と激しく言い争っていた。お婆様は福田鐵の頬を平手打ちし、大声で問いただした。「まさかお前がこんなことをするとは思わなかった。彼はお前の甥なのよ!一体何をしようというの?」