270 達越から出ていけ

帰ろうとしていた加藤恋は、その言葉を聞いて足を止め、少し驚いた表情を浮かべながら橋本様の方を向き、思わず尋ねた。「今、誰があなたを待っているって?」

「交通局の木原局長の息子です。あの小僧は最近何かトラブルに巻き込まれたらしく、私に保護を求めてきているんですが、プライドが高くて付き合いづらい奴でして。だから少し懲らしめて、二度と私の前で生意気な真似をさせないつもりです」

橋本様は恭しく答えた。最初に加藤恋から電話を受けた時は何の用件か分からなかったが、話を聞いているうちに、東京で誰かが加藤恋に手を出したこと、しかもそれが自分の本家の役立たずの私生児だと分かり、急いで駆けつけたのだった。

「彼に会わせて」加藤恋は冷たく五文字を吐き出した。なるほど、秋山心が彼を見つけられなかったのは、とっくに逃げていたからか。