356 人質はどうでもいい

温井康彦の皮肉に対して木村信彦はあまり気にしていなかったが、電話の向こうの温井康彦は車を止めて加藤恋の身元調査を始めた。「私に電話をかけるくらいなら、この女性の夫について調べた方がいいんじゃないか。もしかしたら一儲けできるかもしれないぞ」

加藤恋は以前から温井康彦が彼女のために戻ってくることはないと予想していた。むしろ、彼が戻ってくれば彼女はより危険な状況に陥るかもしれない。そして数回の接触で、木村信彦が彼女を殺すつもりはないことに気付いていた。おそらく東と西のことを考慮してのことで、木村信彦もある程度の遠慮があったのだろう。

「そうであれば、もう君の気持ちなど考慮する必要はないな。結局、彼女は本当に君を救ったのに、恩を売ることができると思っていたが、どうやら考えすぎだったようだ」