325 彼女は愛人になった

福田のお婆様は突然激怒し、普段は息子に怒ることの少ない彼女の表情が一変した。「この件に関する資料は全て処理したのか？」

「ご、ご安心ください……関係者は死んだか、すでに去っていきました。資料や写真も……全て処理済みです」福田鐵は唾を飲み込んだ。彼は忘れかけていた。福田のお婆様も、陰で容赦なく手を下す人物だということを。

「もっと賢くやるのよ。医者に元を早く治させなさい。私もこの数日で心と約束を取り付けたわ。この件はしっかり話し合わないといけないわね」

福田桐子はメイドに二階へ運ばれていったが、彼女の表情は意味深なものだった

福田のお婆様はそう言い残すと、急いで部屋に戻っていった。福田鐵もそれ以上何も言えなかった。結局、今の家の状況は全て彼女の手の中にあるのだから。

翌朝早く、加藤恋が目を覚ますと、福田嘉と須田宏はすでにどこかへ行ってしまっており、福田隼人も早朝から会社の問題を解決しに出かけていた。違っていたのは、テーブルの上に朝食が置かれており、付箋が貼られていたことだ。福田隼人の字で、しっかり食事をするようにと、仕事が終わったら詳しく話そうという内容が書かれていた。

加藤恋は急いでパンを二切れ食べた。温井詩花がすでに練習場所まで迎えに来ていた。最後の公演のため、今すぐ戻らなければならなかった。

車に乗るなり、温井詩花がスマートフォンを投げてよこした。「ねぇ！こんな方法で売れるなんて知ってたの？なんで早く教えてくれなかったの？」

冗談めかしてはいたものの、加藤恋は温井詩花の焦りを感じ取った。スマートフォンを見ると、あるゴシップ記事には「鹿川恋コンビ崩壊、加藤恋がパトロンに囲われていた！」と堂々と書かれていた。

「これは何なの？」加藤恋は思わず眉をひそめた。

「私も、なんでこんなデタラメな噂が出回ってるのか知りたいわ。最初は福田隼人のことかと思ったけど、よく考えたら二人は正式に結婚してるんだから、これは別の人のことに違いないわ」温井詩花は、加藤恋の無関心そうな様子を見て首を振った。やはり母が言っていた通り、この子は天然すぎる。

「そんなに反応しないで。この記事は写真も付いてないし、きっと対抗勢力が金を払って流したんでしょ。誰も信じてないわ。見てよ、ほとんどの人が批判してるじゃない」