521 福田桐子を売り込む

そう思うと、深井陽菜は目の中の興奮を抑えきれず、深井須澄を見つめて言った。「まあ、お兄さん!妹のことを覚えていてくれたなんて。」

深井須澄は冷笑した。「覚えていたくなくても、選択の余地があったかな?もしあの時、あなたのお母さんがあなたの兄と一緒に来なければ、私の母は怒り死にすることもなかったはずだ。」

深井陽菜はこの言葉を聞いて気まずそうな表情を浮かべたが、この時は笑顔を保ちながら相槌を打つしかなかった。

深井須澄はもう話を続けず、ポケットから赤いジュエリーボックスを取り出して深井陽菜の前に置いた。「これはあなたのお母さんがあなたに残したものだ。今、本来の持ち主に返すことにする。」

自分の母が自分に何かを残していたとは思わなかった深井陽菜は、きっと何か珍しい宝物だろうと興奮し、また古い友人たちに自慢できる機会が来たと思い、急いでジュエリーボックスを開けた……

中には錆びついて形も分からないような……ネックレス?が入っていた。

これは一体何なの?馬鹿にしているの?

深井陽菜は不機嫌な口調で言った。「お兄さん……こ、これは何なの?」

「よく分からないが、これはあなたのお母さんが私たちの家に持ち込んだ唯一のものだと聞いている。あなたへの形見として残したんだ。」深井須澄は淡々と答えた。

「何のつもりよ?誰が彼女の物なんか欲しいの?」深井陽菜は怒鳴り出した。これは彼女を馬鹿にしているのか?

彼女たちを捨てた女が残したのがこんなものだなんて?あまりにもケチすぎるんじゃない?

深井陽菜はその価値のないものを見つめながら、ひどく不愉快な表情を浮かべた。最初は何か宝物で、売れば困難を乗り切るための資金になると思っていたのに、今見ると本当に何の価値もないものだった。

そう思うと、福田のお婆様は嘆息しながら言った。「まさか彼らが私のことを覚えていてくれるとは。もし私が今困っていることを知ったら、きっと助けの手を差し伸べてくれるでしょうに。」

深井須澄がこの言葉の裏の意味を聞き取れないはずがなかった。すでに険しかった表情がさらに暗くなり、心の中で深井陽菜に対する嫌悪感が募った。これこそ貧乏な親戚にしかできないことだ。数言も交わさないうちに金を要求し始めるなんて、本当にろくな者じゃない。